株式会社リョケン

旅館経営の知恵

-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-

読んで見直す旅館の接客-基礎編(2)-
コミュニケーションをとりましょう

読んで見直すシリーズ

お客様とのコミュニケーションのあり方は、お客様の滞在がよりよいものになるかに大きく影響します。また、職場の仲間同士のコミュニケーションについても、よりよい職場づくりに欠かせないものです。 ここでは、お客様とのコミュニケーションについて取り上げます。

1.滞在時間をサポートする

 私たちが旅行に出かけ宿泊する時、そのホテル・旅館に満足し、また行きたいと思うのはどんな時でしょうか。施設が快適かつ清潔で、お料理がおいしいのはもちろんのこと、そこで出会ったスタッフの対応がよかった時にだけ、満足感が得られているはずです。
 お客様は、泊まること食べることだけが目的ではなく、宿泊全体を通してどんな時間を過ごせるかを大切に考えています。つまり、ホテル・旅館の人が楽しい時間や心豊かな時間を過ごせるようにサポートしてくれると、その対応がよかったと感じられるわけです。

 そこで、私たちのホテル・旅館にいらっしゃるお客様に満足していただこうと思うのならば、客室や料理を提供することだけではなく、お客様にどんな時間を提供したらよいのかを考えてみなければなりません。

2.お客様はそれぞれ違う

 客室案内や料理提供などのサービスは必要なサービスで、いつでもどのお客様に対してでも、きちんと行われなければなりません。“きちんと”というのは定められた手順と基準に従ってという意味です。
 ところが、お客様をより良くサポートし満足していただくためには、必要なサービスに加えて、そのお客様によってことばや気遣い方を変えなければなりません。

 初めてのお客様には、お風呂の行き方に戸惑われないように説明が必要ですが、何度も来てくださっているお客様に初めての方のような詳しい説明をすれば、「いつも同じマニュアル的な対応しかしないんだなぁ。」とうるさく感じられるかもしれません。むしろ詳しい説明を省いて、「この季節は、露天風呂から日の出をご覧いただけます。」など、新しい発見ができるような説明をひとこと添える方が喜ばれるはずです。

 今、目の前にいるお客様はどんなお客様ですか。ご一緒の方は仕事関係の方ですか。ご家族ですか。ゆっくりと落ち着いて過ごしたい様子ですか。少し急いでいますか。何かの記念日ですか。
 大切なのは、お客様がそれぞれに、その都度違った事情と要望を持っているということと、私たちはそれを理解して対応するということです。

3.コミュニケーションの最初の目的

 お客様がそれぞれに、その都度違った事情と要望を持っているということは、いつもそのことを知る努力が必要だということです。
 まずは、お客様の様子をよく見ることです。そうするだけで得られる情報がたくさんあります。例えば、お客様が仕事関係の方同士だとか、仲の良い友達同士だとか、お孫さん連れだとかは、見てわかります。また、以前にも来られた方かどうかも、お客様の顔を覚えていればわかります。
 見てわからなくても、お客様の会話を聞いていてわかることもあります。

 ところが、見ているだけ聞いているだけではわからないこともあります。
 例えば、仕事関係の方の場合、接待を受けているお客様を優先しないとなりませんが、お席の位置や年齢だけでは判断できないこともあります。料理提供の際に迷ったら、「おしぼりをお持ちいたしました。どちらさまから…(お渡ししたらよろしいでしょうか)。」と尋ねてみてください。そうすれば、どなたかが「そちらの方から。」と教えてくれるはずです。こうすれば、間違いなくお客様の要望に応えるサービスができます。

 また、以前に来館されたことがわかっているお客様でも、説明は勝手に省かないようにしましょう。初めてのお客様がご一緒されていて、説明を受けたいかもしれません。ひとこと「ご説明はいかがいたしましょうか。」と尋ねてみます。そうすればお客様は、自分たちに合わせて説明をするかしないかを決めてくれるのだと、配慮ある対応を喜んでくださるはずです。

 さらに、お食事中にお客様がご不自由ないかを確かめるために、コミュニケーションをとることが重要です。
 お客様から声がかからなければ放っておいてよいのではありません。「お客様、何か足りないものなどございませんでしょうか。」と尋ねてみましょう。足りないものはなくても、ちょうどよかったと質問があるかもしれませんし、ついでに飲物の追加をお願いしようかなという気持ちになるかもしれません。見ているだけでは、お客様の心の内を十分に知ることはできません。

 コミュニケーションの最初の目的は、お客様の事情や要望をできる限り正しく受けとめることにあります。

4.コミュニケーションで人間関係を築く

 サービスの動きやことばをお客様に合わせることができてきたら、次は配慮のコミュニケーションをとりたいものです。

 例えばご来館時の「お寒い中、ありがとうございます。」など、気候に合わせたあいさつもそのひとつです。
 また、お風呂上りのお客様に「お風呂はいかがでしたか。」「お疲れはとれましたでしょうか。」などと尋ねてみることも、お風呂という施設を提供していればよいのではなく、お客様に気に入っていただけたかどうかを気にかけているのだと喜んでくださるはずです。
 「いかがですか。」「○○をお持ちいたしましょうか。」「よろしければお使いくださいませ。」などのことばを、心がけて使ってみましょう。

 私たちがコミュニケーションをとることは、お客様に配慮を示すことそのものです。私たちの気遣いを受けとめていただけたお客様とは、良い人間関係が築けます。それでこそ、ご滞在の時間がいっそう豊かに感じていただけるはずです。

5.コミュニケーションで最も大切なこと

 コミュニケーションとは、そもそも意志伝達・意思疎通ということです。
 つまり主体は“意志”、すなわち私たちのお客様に対する気持ちが問われているのです。

 「お客様に喜んでいただきたい」「良い時間を過ごしていただきたい」という気持ちを持ち続けることが最も大切です。
 そしてそれをお客様に伝え、お客様には「このホテルを選んでよかった」「この人に対応してもらってよかった」と思っていただけるようにするのが、コミュニケーションの目標です。

6.職場のコミュニケーション

 もちろん、私たちの仲間とも気持ちを伝え合いましょう。ことばに出すこと、目で合図をおくること、忙しい仕事中でもメッセージを発信することは可能です。お互いの気持ちを支え合える仲間でありましょう。

(リョケン研究員 大西ますみ)

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