株式会社リョケン

旅館経営の知恵

-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-

売上至上主義を疑う

コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」

収益性の確保【1】

抜け出す経営への原理原則

今回から、「収益性の確保―損益分岐点を引き下げる」に入っていきたい。
弊社では毎年、「旅館の経営指針」というものを刊行している。旅館・ホテル業界を取り巻く経営環境を背景に、その年、その年のテーマとなる言葉を据えて、様々な角度から提言しているものである。じつは、世がコロナ禍に突入した翌年の2021年に掲げたテーマが「高収益経営へ―Chance to Change!」というものであった。この時の提言論旨をごく手短に言うと、「コロナ真っ只中の今こそ、アフターコロナに向けての体質転換を進めるべきであり、今がそのチャンス」ということである。そしてその転換によって目指す方向を「高収益経営」とした。その中に述べたことはここでのテーマに合致するものであるし、また4年近く経った今も同じことが言えるので、しばらくこの内容をなぞってお伝えしていこうと思う。

 

前置きが長くなったが、本題に移る。
①売上至上主義を疑う
私たちは長い間、売上至上主義に囚われてきた。そして今も囚われているかもしれない。
「売上がすべてを癒す」とは、かつてスーパーダイエーを創業、急成長を成し遂げ、「価格破壊」によって日本の流通に革命をもたらした中内功の言葉である。売上はあらゆる業績の元となるものであり、ほとんどの経営指標は、売上高を基準に測られる。そして事実、売上が高まればそれらすべての指標が良くなる。「売上がすべてを癒す」とはそういう意味だ。ただし…
旅館商売において、売上至上主義はしばしば「客数至上主義」、さらには「稼働率至上主義」に直結していたりする。客数も稼働率も確かに重要なKPI(重要業績評価指標)であって、高いに越したことはない。しかし本当にその稼働率、客数が、何よりも優先して高めるべき数字と言えるかどうか?
売上は「単価×販売数量」で表されるが、宿泊業が流通業などと大きく異なる点として、「1日の販売数(客数)に限りがある」ということがある。どんなに頑張っても、定員を上回る客数を泊めることはできない。だから、よほど多くの客室を持ち、それを非常に少ない従業員で回せる仕組みを確立しているところは別として、大多数の旅館において、そもそも「薄利多売」は商売として成り立たない。だが一方で、「今日売れ残った商品(客室)を明日売ることはできない」ということも言える。ともかくも客室を埋めなければ始まらないので、値段を下げてでも、1室でも多く売りたい。そこがジレンマだ。
ただ前回も言ったが、旅館業はもともと「一物一価」の法則が当てはまらない商売である。旅行業者によって比較検討される団体料金を除けば、旅館業の「価格弾力性(価格を下げることにより期待される購買数量の伸び)」はそれほど高くない。安く売ることは、売上の拡大に結び付くプラス効果があまり期待できないだけでなく、「身を削るだけ」ともなりかねないのである。

次回は「付加価値」という点において、より深堀し考えていきたい。

(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2023年10月に観光経済新聞に掲載されたものです。

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