株式会社リョケン

旅館経営の知恵

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利用ニーズの変化と対応(7)パブリック施設

旅館はもっと良くなるべきだ

団体客の減少によって、クラブ、ナイトラウンジといった施設があまり使われなくなった。かつては館内消費を高める場として有効であったが、今日へたをすると館内でも利用度のかなり低いスペースになっている。

パブリック施設の見直し

そこで検討したいのが、これをライブラリー、プライベートラウンジ、リラクゼーションルームといった「自由に過ごす場」として提供することである。この場所をあえて畳敷きにし、こたつを置いて、昔懐かしい「茶の間」の雰囲気を再現するというようなことも考えられる。またプロジェクターを入れてムービーシアターにしたり、ファミリー層を広く受け入れたりしているところでは、キッズルーム(ゲームコーナーではなく)、卓球場とする手もある。
「なんだ、それじゃあ少しも稼ぎにならないじゃないか」と思われるだろう。その通り、そこで稼ぐことは考えない。その代わり、そういうものを新たな付加価値要素として打ち出すことによって「宿の価値」を高める。客室の稼働率を高めたり、宿泊単価を高めたりしていく戦略と結びつけるのである。

とはいえ、パブリック施設の用途変更に踏み切るには、営業方針を含めたかなり大胆な政策転換が必要になる。宴会シーズンや団体受け入れの際に、2次会場となるパブリック施設がないのは、何かと取り回しに不都合もあるだろう。完全な転換が難しい場合は、水回りなどのサービス機能を残して兼用とする方法もある。例えば「バーラウンジとしても使えるライブラリー」といった使い方だ。必要に応じて貸し切り対応も行う。
クラブやナイトラウンジと同様のことはロビーラウンジにも言える。団体対応を円滑にこなすため造られたロビーの広さが、昨今はあまり意味をなさなくなってきている。しかしロビーラウンジは天井が高い場合も多く、この空間の一部を仕切るなどして別の用途に転用することは容易ではない。そこであえてそういう無理はせず、空間演出によって、むしろロビーラウンジそのものの存在価値を高めることを考えてみよう。特に夕方から夜にかけての時間帯に、お客さまがそこで過ごしたくなるようなムードをつくりあげてみることだ。

例えば、椅子・テーブルセットのうち中央付近の1組を取り払ってみる。それによって空いたスペースの生かし方を考えてみよう。
ボリューム感のあるフラワーアレンジメントや、オブジェとなるような幻想的なフロア照明を置いてみてはどうか。オブジェを兼ねて高級オーディオセットを据え、ほのかにライトアップするのもよい。またこれらを囲むように椅子のセッティングを変えたりしてみると、案外面白い「場」づくりができると思う。さらに、セルフサービスでソフトドリンクを提供したり、夕食前や食事後に甘い香りのするクレープをふるまったりするなどしてみてはいかがだろうか。
目的はロビーラウンジのイメージ、そして「宿のイメージ」を変えることにある。できれば中途半端なことをせず、少し思い切ったお金をかけることをおすすめしたい。それでも改装するのに比べれば、はるかに低いコストで済むはずだ。これも同じように評判を高めて今後の集客アップ、単価アップにつなげるための施策と位置付ける。団体利用の減少というニーズ変化に施設構造も適応させ、「追い風」とする挑戦を続けていただきたい。
 

(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)

 

※当記事は、2016年8月に観光経済新聞に掲載されたものです。

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