株式会社リョケン

旅館経営の知恵

-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-

旅行市場を握るシニア層(3)

旅館はもっと良くなるべきだ

拡大しつつあるシニア層にどのようなニーズやウォンツがあるか、「思い」というキーワードから捉えた三つの観点のうち、前回は“皆で楽しみたい”という「思い」について述べた。

引き続きあと二つの「思い」について考える。

2)“一緒に思い出をつくりたい”という「思い」

 “皆で楽しみたい”にもとづく同窓会やサークルでの旅行や集まりよりも、もう少し気軽に動ける人数の活動動機として、“一緒に思い出をつくりたい”という「思い」がある。この「思い」で動く旅行の最小単位が「シニア夫婦旅行」だ。一緒に暮らしていて都合が合わせやすいシニア夫婦は、旅館を利用する個人客の中でもたいへん多い。
 「じゃらんリサーチセンター」の調査(2015年)によれば、宿泊旅行において「夫婦旅行」が全世代平均で24.5%であるのに対し、シニア層(当該調査では50~79歳)の男性では37.2%、女性では32.6%がこれを行っている。シニア夫婦の中には、自家用車で温泉・観光旅行を1週間程度かけて楽しむ人も多く、ネット利用が普及した今日では、滞在先から次の宿泊先の予約を入れるといった行動も増えてきている。
 「家族旅行」という観点で捉えれば、子世代・孫世代と一緒に楽しむ三世代旅行、シニア兄弟姉妹での旅行、親戚一同での旅行など、今までできそうでできなかった旅行で「思い出づくり」をする姿も多く見受けられる。さらには、シニアどうしの女性グループや男性グループ、何組かのシニア夫婦どうしなど、気の合う仲間との旅行も活発である。
 “一緒に思い出をつくりたい”との「思い」から、同じ部屋で一緒に泊まりたいという希望もしばしばある。1室定員を超える人数になるような場合は、小宴会場を開放したり、特別室などの広いお部屋を用意してあげることも価値を生む。そんな使い方はどこの旅館でも多かれ少なかれ経験があると思うが、ただ要望があるからやるのでなく、そこに本腰を入れて積極的に商品化していくのも手である。

3)“一人で旅を楽しみたい”という「思い」

 「一人旅」が年々増加している。多いのは若年層だが、最近はシニア層、特に男性の一人旅が増加している。自分の趣味や、これまで体験したかったことの実現のためである。
 JTBはじめ旅行会社各社でも「一人旅」(特に男性)の商品を積極的にそろえるようになってきており、いずれも好調な売れ行きである。日本旅行の「プレシャスエイジ おとなのひとり旅」という商品では、ローカル鉄道乗車や寺社詣で、郷愁の昔町、自然体験、温泉旅行など、昨年春~夏期に東日本22コース、西日本19コースが用意され、目標の7割増の売れ行きだったという。企画はその後さらに拡充され、この夏には8テーマ91プランが用意されている。
 旅館ではこれまで、「一人旅」は1室当たりの売り上げが伸びないため敬遠されがちだったが、この需要が確実に増加していることには注視したい。近ごろはかなり高額な宿泊料金で利用する人も多くなってきている。

 60代、70代の人たちも、わずか20年前には40代、50代だったのである。現役の頃に果たせなかった夢や語らいを、今こそ実現したいと思っている人は非常に多いはずだ。その「思い」に手を差し伸べて応援することが、旅館にとっての「新しい市場」の開拓につながるということを、あらためて考え直してみたい。

(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2015年9月に観光経済新聞に掲載されたものです。

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