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賃金制度の再設計

旅館経営タテ・ヨコ・ナナメ

賃金上昇への圧力が高まっている中で、これにどう対処していくかというチャート図を前回掲げ、いくつかの対策方向を示した。

このうち、「人件費総額の増大を抑えたい」とする場合の対策方向が、「労働」あるいは「処遇」に関わる領域となる。そしてこれを「総労働時間を減らす」方向で考えるなら、「業務を見直す」「働き方を変える」「省力化投資」のいずれかだ。だが総労働時間を減らすのが難しいとなれば、賃金の配分を変えるしかない。「賃金制度の再設計」である。

 

給与の根幹となるのは「基本給」だ。その中身は、日本の企業では一般に「仕事的要素(仕事給)」と「属人的要素(属人給)」の二つで構成される。「仕事給」としては、「職務給」―具体的な仕事(職務)の内容によって決められる給与と、「職能給」―職務を遂行する能力を評価、格付けすることによって決める給与があり、そのどちらかである場合と、併用されている場合とがある。他方、「属人給」とは、年齢、学歴など、仕事とは直接関係のない要素によって計られるもので、最も一般的なモノサシは勤続年数(年功)だ。これらは時間給においてもおおむね同様のことが言える。もっとも大半の旅館では、そもそも基本給を定める規定がなく、「ドンブリ給」となっているのが実態ではないだろうか。
 

給与にはこの他にさまざまな「手当」なども含まれるが、「賃金制度の再設計」とは、これらを合理的で納得性あるものに変えていくことにある。まずはドンブリ給から客観的な規定による給与体系に移すこと。また基本給に関しては、能力の発揮を期するため、属人給の比重を下げ、仕事給の比重を高める方向が望まれる。

 

ところで、こうした制度を「作る」だけなら、ある意味で手間と時間と方法論さえそろえばできる。それなりのお金をかければ社労士の先生にお願いして作ってもらうこともできるだろう。しかしそれを適用する相手は、それぞれに心を持ち、生活を背負った生身の人間だから、事はそう簡単ではない。導入の仕方が大きな問題となる。そこで導入時の波乱を最小限に抑え、軟着陸するための方法例を一つ示したい。少々シビアな話になる。

 
新制度の導入時には、ひとまず従来通りの給与でスタートする。その一方で、制度の内容を社員にきちんと伝える場を持ち、今後は新しい制度に照らして「昇給格差」が生ずること、能力の劣る人や働きの悪い人は昇給なし、場合によっては降給もあることを予告する。そのうえで、1年から3年ぐらいかけて徐々に制度に整合させていくのである。そしてつらいが大事なのは、改定の都度、理由を話して聞かせることだ。それでも、やがて調整の過程では不服とする人も現れるだろう。もしかすると退職者も出るかもしれない。そういうことを初めから覚悟しておく必要がある。

 
これはあくまでも一つの例である。他にもやり方はあるだろうが、いずれにせよ厳しい断行が迫られる。

 
さて、以上は「人件費総額」「総労働時間」のいずれも変えない場合の方策として述べたものだが、そうでない場合でも、今後の経営を組み立てていく上で、極めて大切な部分である。ぜひ検討していただきたい。

 

 

(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2019年9月に観光経済新聞に掲載されたものです。

 

 

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