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<旅館ホテルのコロナ感染症対策> ウィズコロナ期の運営検討のヒント

旅館ホテルの感染症対策

~ コロナ感染予防対策をベースに、次のステップへ ~ まだまだ終息への道筋が定まらない状況ですが、緊急事態宣言が解かれ、都道府県をまたいでの移動自粛も緩和されました。 先日は、新型コロナ対策対応ガイドラインをベースに「営業再開に向けた運営のヒント」を取り上げましたが、今回は、感染予防大尉策をベースに次のステップへの運営検討のヒントをまとめました。

 

 

観光地へのお客様、とりわけ旅館でゆっくりしたいと思うお客様は確実にあり、中規模大規模施設でもこのところの週末は、以前の6~7割に戻ってきたというところも少なくありません。

 

ただし、これはあくまでも「羽を伸ばしたい」という、厳しい感染対策の日々からの開放を求めているお客様が多くいるということであって、館内の至るところに感染予防策があっても、マスクとフェイスシールド、ゴム手袋のスタッフであっても、荷物を持ってもらえなくても、こういう時期は仕方がないと、お客様が辛抱してくれているということを忘れてはなりません。

これから、各地の観光推進策やGO TO キャンペーンを利用した宿泊客が増えてくると、消費者の心理は、単に開放感を求めているというのではなく、「旅行をしてもよくなった」という考えに移行していきます。

 

そうなると、「少し辛抱しながらでも旅館に泊まる」ということを疑問に感じる方が増えることは間違いありません。

また、働く人々にとっても、ウィズコロナがいつまで続くかわからず、いくら新しい生活様式の運営と言ったところで、お客様への気遣いや寛ぎの空間、特別感のある料理をこのまま提供できなくなってしまうことへの寂しさや苦しさは拭えるものではありません。

 

そこで、ウィズコロナの感染対策下の運営について、次のステップに向けて検討すべきことを考えてみます。

 

 

緊急事態宣言下のコロナ感染防止策から、ウィズコロナ期の旅館らしい対応へ

再開をした宿泊施設では、感染防止の徹底は元より、次のステップとして「旅館らしいサービス」や「くつろげる環境」「豊かな食事時間」などの提供を、いかに実現していけるかを模索し始めていることを強く感じます。

ウィズコロナの運営が長期化する中では、間に合わせでなく、持続可能で商品価値を高める運営が不可欠となってきました。

 

 

《入館時の検温のお願いと手指の消毒》

これはまさに、新しい常識の世界です。施設側にとっても、お客様か相互にとっても、安心感のために欠かせません。

検温は非接触型の体温計を使うところが多いようですが、これを「額」で測るのか、「手首の内側」で測るのかで、お客様の印象は変わります。病院の検温のように額に体温計が向けられるところは、この左の写真のような感じです。

一方、右の写真はどうでしょう。目の前に迫る体温計の圧迫感に比べると、格段に受け入れやすくなっています。

表示体温の差が気になるところですが、額の場合も外気がよく当たっているために高くも低くもなる可能性があるそうです。2回手首で検温して37.5度(あるいは37.0度)を超える場合は、額でもう一度検温させていただき判断するなど、手順を決めておきましょう。

(※測定部位を特定している機種の場合は、その指示に従ってご使用ください)

 

 

 

《サーマルカメラの設置》

体温計での対応でも計測待ちの列ができてしまわなければよいのですが、お客様の来館はこれから本格的に増えてくることも考えられます。営業的には、感染予防を万全にする上で、集客を伸ばしたい気持ちもあります。
そうなると、効率よく安全確保をするために、サーマルカメラ(体表面温度測定カメラ)の導入も検討すべきかもしれません。

 

 

《フェイスシールドとゴム手袋の着用について》

感染対策として、近距離の応対が必然であるスタッフがフェイスシールドを着けて接客をする様子は、今はまだ感染予防によく取り組んでいる、という理解を得られているかもしれません。しかし、冒頭に述べたように、ある時期からは違和感に変わるタイミングが訪れることを忘れてはなりません。

病院などの衛生対策をイメージさせるので、接客を作業的なものに感じさせてしまう可能性が高く、難点があります。また飛沫感染を避けるためには、フェイスシールドの代わりに花粉用のメガネを検討するところも出てきました。

 

ゴム手袋は作業には必要であっても、接客には適切な使い方ができていないことが多いようです。

 

すでに報道でも指摘されているように、ゴム手袋に消毒しても十分に除菌ができず、衛生的に使うことができない問題もあるようです。

加えて、料理提供時でもお客様の荷物をお手伝いする時でも、次の対応のためにはゴム手袋を消毒するか新しいものにつけ替えることが必要であることは明らかです。そうであれば、素手の手指をお客様に見えるところで消毒するほうが、お客様に安心感を与え、実質的な消毒になります。

 

 

《お客様用消毒スプレーのボトル》

消毒スプレーがボトルごと盗難に合ったという話をよく聞きました。そうなると、盗難防止のためにチェーンをつけたり、必要以上の大きな文字で「持ち出し厳禁」と書かれている消毒スプレーをよく見かけるようにもなりました。
お客様の印象を損ねずに設置する方法を考えるべき時期に来ています。
*スプレーボトルをA4ほどの大きさのプレートに接着させたものを置く
*プレートは、設置場所の雰囲気に合わせた素材や色柄を選ぶ
*スプレーボトルそのものを、陶磁器製のものに替え、メッセージプレートを添える
など、すべてのお客様が何度も目にするものだけに、検討すればするだけ、効果が期待できそうです。

 

 

 

《客室清掃のメッセージ》

これまでにない徹底した衛生管理のもとで清掃作業が行われています。そのことは、各館のホームページで発信する施設も多く、お客様に安心感を与えることに役立っています。
一方で、そのような情報を見ることなく来館されるお客様もいます。客室に入ってから、ここは拭いているだろうかと心配になることがあるかもしれません。
その心配を拭うために、以下のようなメッセージを客室に置いている例があります。

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お客様へ

《客室内の清掃について》

客室の清掃は、通常清掃に加えて、お客様がよく触れられるところの消毒を徹底しております。ご心配なことがありましたら、ご遠慮なくお知らせくださいませ。ご説明やご対応をさせていただきます。

清掃担当代表 〇〇〇〇

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《食事会場のつい立》

個室ではない食事会場では、テーブルをはずすか使わない席として間隔を空けたり、ひとテーブルの定員を少なく設定したり、「密」にならない工夫をしています。
対応できる組数が大きく制限されるため、ご利用数が増えれば2回転を検討することも少なくありません。
2回転となると、ゆっくりお食事をしていただきたくても、セッティングのし直しを考えると2時間の設定はたいへん難しく、お客様にはある程度ご理解を求めての運営になっています。
特に高質感を期待されている施設にとっては、まだ今だからご理解いただけるのであって、いつまでもお客様にせわしない思いをさせるのは考えものです。

 

個室化するには費用と日数がかかります。運営的にもホールだからこそ、機能的な運営ができることもあります。そこで、個室化せずに使えるテーブル数を増やすために、「つい立」を活用した例があります。
ポイントは、隣席との仕切りであって、目隠しではない点です。スペースに対してテーブル数が比較的多めである場合、目隠しになるつい立では、一層ホールの圧迫感が出てしまいます。

 

左の写真のように、アクリル板を使ったつい立の場合は、その圧迫感を感じさせずに済み、ホールスタッフも見通しが利き、お客様からもスタッフの動きが見えやすいので、対応がスムーズです。ただでさえ、限られた人数でシフトを組まなくてはならない現状では、運営効率を考えた工夫は不可欠です。
右の写真は、カウンター席に設置したつい立の例です。今まで、優先的には使われなかったカウンター席ですが、今や新しい生活様式の中で大いに活躍しています。

アクリル板の枠は、周囲の家具と同調させ、また安定感はあるけれどレイアウト変更の際にひとりで運べる重さであることも効率化に役立ちます。例えば1枚で180センチ幅とするよりも、90センチ幅2枚とするほうが機能性が高まるという考え方です。

 

 

 

 

《料理説明に代えて》

口頭の料理説明は控えるように、というのがガイドラインに示されています。そうなると、少なくともお品書きを添え、料理名だけでなく、場合によっては少し細かく素材を記載したり、鍋物などの召し上がり方まで記載しておくことが求められます。
ところが、文字がびっしりと書き込まれていると、中には読むのが億劫に感じられる方や、口頭の説明とは違い説明文では味気ないと思う方もあるでしょう。
そこで、お品書きに絵献立を添える方法を考えてみましょう。下のお品書きには、スマホのアプリを使った「手書き風の画像処理」を施した写真を使っています。絵献立はだれが描くの? 内容が変わるごとに用意するのはたいへん、献立の種類全てに用意できない、などという場合には、このような「手」を使ってみるのも一案です。

 

 

 

《テーブルの拭き方》

これまでも、提供終了後などに、あらためてアルコールを使ったテーブルの拭き上げを行ってきた施設もあるでしょう。この状況で増えているのが、ダイニング席の2回転と部屋食です。これまでと違い、お客様に見えるところでテーブルを拭くという作業になります。
まず、衛生管理が徹底される拭き方を再確認し、また、お食事の楽しみを損ねてしまわない拭き方に配慮しましょう。

 

*テーブルの拭き方は基本通り、汚れを集めるように布巾を一方向に動かし、最後に汚れを寄せたところを拭いとる
*食べこぼしはテーブルの上にあり、手指からの汚れや雑菌などはテーブルのふち付近に多く付着するので、テーブルのふち回りの消毒を徹底する
*汚れのひどいところは、水拭きの布巾で大方の汚れを取ってから、アルコールなどの拭き上げを行う
*アルコール類用の布巾は、乾いたものを使用する
*作業的な印象を控えたい場合は、アルコール類をテーブルにスプレーで吹きかけず、乾いた布巾に吹きかけて拭き上げる手順に変える
*この場合、アルコール類は揮発しやすいので、布巾に十分なアルコール類がある状態で拭き上げること(一度で拭こうとせず、2-3回に分けて吹きかける)

 

《ロビーラウンジのつい立》

ロビーラウンジでも食事会場同様に、「密」にならない工夫をが必要ですが、席数が不足したり、閑散としてせっかくの雰囲気がイメージダウンになっているケースも見られます。

 

下は、先の食事会場同様のつい立を入れた写真です。

 

これからお客様が増えてくる場合を想定した、サスティナブルな感染対策が求められます。

 

 

 

新しい生活様式、新しい常識は始まったばかりです。
私たち旅館にとっても、新しい運営スタイルを作り上げる取り組みは始まったばかりです。

 

 

(株式会社リョケン 本部長 大西ますみ)

 

 

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