株式会社リョケン

旅館経営の知恵

-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-

将来顧客を育てる(3)

コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」

将来顧客を育てるという観点から、前回は「ライフステージ」を利用に結び付ける企画発想のヒントについてお伝えした。  

ではその企画を見込み客へどう伝えていったらよいだろうか?…結論から言おう、「DM作戦」である。

⑤DMは旅館に有利

 子どもが入学や卒業、あるいは成人を迎える年齢になると、どこで調べたのか知らないが、いろんなところからDMが送られてくる。車検の時期が近付けば、やはりDMが来る。それはそのタイミングで手元に情報を届けることが効果的だからである。
 これらもろもろの商売に比べて、旅館がDM活用において有利な点が三つある。
 一つは、リストを集めやすいことである。利用客(=見込み客)に住所、氏名、電話番号を書いてもらえる商売は、そう多くない。
 二つ目は、旅館の宿泊体験は単なる物品購入と違って、1泊ないしそれ以上という「特別な時間を過ごした記憶」と共にあることである。DMはその懐かしい記憶を呼び起こす。
 三つ目は、旅館商売はさまざまな利用機会が見込めることである。しかもその機会は、1人のお客さまの「ライフステージ」に関わることで、生涯にわたり何度も訪れる。
 企画商品をマーケットに伝えるには、むろんネット上にプランとして掲げるべきであろうし、折込みチラシやマスメディアによる広告宣伝も検討されてよいが、こうした意味で、旅館においてDMほど効果的なメディアはない。

⑥顧客リストを集める

 DM作戦を展開する上で必要不可欠なもの…それは言うまでもなく「リスト」だ。「将来顧客」の観点から言えば、子どもや孫も大事な見込み客となる。
 例えば三世代でのご利用があったら、代表者だけでなく同行者全員の情報を書いてもらうこともできる。小欄で以前、「ライフタイムバリュー」(顧客生涯価値)というお話をしたが、仮に5人分の情報をもらえば、一度のご利用で生涯価値を活かす機会も5倍に増える。そのために相応のインセンティブコスト(プレゼントなど)を払ったとしても、広告宣伝や送客手数料(1人当たり千数百円~数千円)に比べれば安いものだと思う。
 ところが…である。ほとんどの旅館で、リスト蓄積そのものが行われていないのが現実だ。聞いてみると、それは大方次の理由による。

 (ⅰ)そういうことに手が回らない。

 (ⅱ)そういうことをやる技術的能力がない。

 しかしこれらはいずれも表面的な理由に過ぎない。その気になれば接客にかける手間の何十分の一かで入力作業はできる。人手が足りなければそのためのアルバイトを雇ってもよい。いまやパソコンや周辺ソフトの充実によって、適合条件抽出や宛名印刷などもかなり容易である。ネットの時代だから、状況に応じて紙媒体によるDMとメールマガジンを使い分けるのもよい。
 要は、「今日、目の前にいるお客さまと明日の顧客づくりのつながり」を認識するかどうか、そして「そこに労力をかける価値」を認識するかどうかである。
 利用したお客さまこそが最も有望な見込み客である。「どう伝えるか?」の前に「誰に伝えるか?」…このことにぜひ目を向けてみていただきたい。

(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2016年2月に観光経済新聞に掲載されたものです。

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