株式会社リョケン

旅館経営の知恵

-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-

「自分好み」で決まる個人型旅行(2)

旅館はもっと良くなるべきだ

個人の旅行では、当然のことながらお金は個人で払う。夫婦の旅行でも家族旅行でも財布はひとつである。日本人の平均的な所得水準から考えても、それほどふんだんにお金を持っているわけではない。個人型旅行の選択は、旅行する本人の懐具合と納得感に直結している。そこで真剣に考えたいのが、お金を払うことに対する「納得できる価値」である。

2.その人にとっての価値

 お金をいただくのは、泊まるための部屋を提供するから、食事を提供するから、大きなお風呂も用意しているから…と旅館の側では当然のように思っている。しかしこれらはお客さまにとって手段であって目的ではない。
 それらに対価を払うことは世の習いなので、お客さまの方でも目的の実現など特に意識することなく、宿泊行為そのものにお金を払うわけだが、本質的には、何らかの価値ある時を過ごすために旅館に泊まり、そのためにお金を払うのである。
 「このたびは母のお祝いのためにみんなでお世話になりました。心のこもったおもてなしに母もたいへん喜んでくれ…本当に良い思い出になりました。」
 宿泊アンケートなどで、こんな声をよく目にする。部屋や料理や風呂などが満足できるものだったからこそには違いない。しかし何よりも母親が喜んでくれたこと、それを囲んで家族みんなが幸せな時を過ごせたことが、この人にとって価値のあること、つまりそういう場をつくってくれたことが「納得できる価値」なのである。
 「サプライズ」と呼ばれる仕掛けが最近あちこちの旅館で行われるようになった。誕生日だから、結婚記念日だから…「○○でお祝い」してあげるというもの。これはこのような「誰かに喜んでもらえることが喜び」というツボ、それから「予想外のことが感激を呼ぶ」というツボを押さえたもてなしをかたちにした例と言える。
 では熟年のご夫婦が普通に観光と静養を兼ねた旅行の場合はどうだろう? あるいは普通の子供連れ家族旅行の場合は? 一人旅の場合は?…それぞれ、その人にとっての「納得できる価値」を感じてもらうために、私たちはいったいどんなことをしてあげられるだろうか? そこのところを、ぜひ掘り下げて考えてみたい。
 部屋を用意する、食事を提供する、あいさつをする、お見送りをする…という一連の「業務」に加えて、「このお客さま」にしてあげられることを考える。それはことさらにプレゼントなどである必要はない。例えば「ことば」も、そのお客さまのためのものなら立派な価値を生む。
 個人客は、気に入れば自分の意思でまた利用する。「ここに泊まってよかった」と思ってもらうことが次につながる。「お客さまに喜んでいただくことが繁盛の秘訣」という旅館商売の原理原則が、個人型旅行ではそのままあてはまるのである。

(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2015年10月に観光経済新聞に掲載されたものです。

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