旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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削ぎ落とすべきコストを考える(1)
旅館はもっと良くなるべきだ
「ヒト・モノ・カネ」と表わされる経営資源には限りがある。経営はそれをどう効率よく配分し、効果的に活かすかだといえる。収支の見方からすれば、例えば15,000円でご利用のお客様に15,000円以上のコストをかけていては当然採算が合わない。だから価値を高めるためにコストをかける一方で、削ぎ落とすべきコストを「戦略的に」考えることが求められる。
「売上が減ったから、それに合わせるようコストを抑える」ということも必要な対応ではある。現実には多くの旅館の実情がそれかもしれない。しかしそれだけではじりじりと後退するだけで、付加価値の向上にも、生産性の向上にもつながらないことを認識しておきたい。「何をするか」だけでなく、「何をしないか(削るか)」を決めることも、戦略としての重要な選択といえる。
1.提供する商品の見直し
ここで言う「商品」とは、主に料理・飲料・売店商品などの商材、およびサービスのことである。「見直す」というのは「減らす・絞り込む・替える」を考えることを意味する。
やめたり減らしたりするのは、かなり勇気のいることである。やめることで評判を落としてしまう不安がつきまとうからだ。だから漫然とその部分だけ見て考えても、なかなか答えは出てこない。
お勧めしたいのは、これまでに提唱した四つの「パフォーマンス・アップの着眼点」に照らしてみることである。すなわち「宿のコンセプト」、「ユニークな強み」、「洗い直した自館の良さ」、「ブランドづくり」の四つ――これらに密接な関係があるものは残し、これらと無関係なもの、関係が薄いものは、思い切って削ぎ落とせないか考えてみる。
例えば料理。一般的な会席料理の流儀に従えば、先付、八寸(前菜)、吸物、向付、煮物(炊合せ)、造り、焼物・・・といった流れがある。これはこれで和食の伝統にのっとった理由があるものと思うが、自問していただきたいのは、そうやって構成された自館の料理にどれだけのメッセージ性があるか? ということである。商品としては、むしろこうした「通念」をいったん取り払った発想をしてみたい。
よく言われるのは「品数を減らす」ということである。それも方法だが、今ある料理から何かを減らすというアプローチだけでは、とかく物足りなさへの不安が先立って思い切った変更ができない。そうではなく、中心に据える料理を出発点に、「ウチはこの料理で、こういう構成で勝負していく」という意図をもって一から組み立てることをお奨めしたい。削る・修正する、ではなく、作り上げるのだ。
あるいはサービス。これも削ることからでなく、逆に挙げることから始める。「当館の印象をどこで高めるか?」という観点で「やる価値のあるサービス」を挙げていき、それ以外をやめる発想をしてみることである。
単純に無くすだけで済まされない問題は、「その代わり」という発想で他の手段に置き換えられないか検討してみるとよい。人的なサービスを物的なサービスに置き換える、人が口頭で伝えていた情報を表示物、案内物、場合によってはデジタルサイネージやタブレット端末に置き換えるといったことである。その際、これまでかかっていた人的コストと置き換えるもののコストを数字で比較検討する。イニシャルコストは多少かかるかもしれないが、2~3年で元が取れるようなことがいろいろとあるはずだ。
こうしたことの積み重ねが、ひいてはコスト構造を変えていくことになる。
(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2015年6月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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