株式会社リョケン

旅館経営の知恵

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お届けする経営のヒント-

生産性向上の大局観(10)

旅館はもっと良くなるべきだ

生産性向上に関して、大局的な観点からいくつかの切り口で見てきた。日本の宿泊業の生産性が、世界や国内の他産業と比べてどんな位置にあるのか、生産性の向上を図るために、われわれはいったいどんなことに着目し、取り組んでいくべきか、といったことだ。生産性を高めるためにやるべきことはまだまだあると筆者は考えている。

旅館の生産性は結果

しかし…である。旅館の生産量は労働力の投入量と比例しない。そもそも売り上げが繁忙度合いによって全く変わる。ハイシーズンの休前日には黙っていても高まるし、オフシーズンの平日はどうがんばっても低くなる。生産性も、実際のところ大方これらの結果として決まるのであって、予定されたものではない。旅館の生産性は「結果」なのである。となると、まずはこの問題を考えるのが先決ではないか。

 

旅館など宿泊業は、その日に売れる最大値は客室の数からおのずと決まっている。またこれを在庫することはできない。従って、今日売れ残った分を明日売ることはできない。こういう特性を持つ商売を、筆者は「座席型商売」と呼んでいる。航空会社、映画館といったものがこれと同類に属する。

一般に売り上げは「単価×数量」に分解される。これはどんな商売でも同じだが、その「数量」に上限があり、しかもその日、その時にしか売れないという点で、座席型商売は他と異なる。そして決まっている上限の中で、なるべく大きな売り上げとするためにさまざまな工夫をする。その結果、同じ日、同じ条件の利用でありながら、価格が何通りもあることも座席型商売の特徴だ。かくして座席型商売の「単価×数量」は、「平均いくらで売ったか」と「どれだけ席や客室が埋まったか」という物差しに置き換えられることになる。宿泊業なら「平均室料単価」と「客室稼働率」、あるいは「平均宿泊単価」と「定員稼働率」である。

 

これらを科学的に検討し、収益の最大化を実現しようとしたものが、イールドマネジメント(レベニューマネジメント)だ。この管理技法は航空会社が発祥だが、後にホテルで取り入れられ、近年、旅館業界でも注目されるようになっている。この技法がどこまで意識されているかはともかく、大半の旅館で「今日の売り上げをなるべく多くする」ための攻防は毎日行われている。

自館の商品が他のライバルと大して違いがないと認識されている場合、「価格での競争」を強いられることになる。予約の先行き見通しが厳しいと、とかく価格を下げることに流れる。どんなに強がっても、客がなければ、売り上げがなければ始まらないから、それもある程度必要ではある。

 

純粋な価格競争では普通、より安いものが勝つ。しかしそれだけでは将来がない。

どんな商売も競争と無縁ではあり得ない。ただし競争には大きく二つの種類がある。一つは「価格競争」、もう一つは「価値競争」だ。生産性の向上を図るためには、まず安定的な売り上げ確保を実現することが必要であり、その売り上げが価格競争に翻弄される消耗はなるべく避けたい。そこでもう一つの方向「価値競争」というものについて、次回考えていきたいと思う。

 

(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2018年9月に観光経済新聞に掲載されたものです。

 

 

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