旅館経営の知恵
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お届けする経営のヒント-
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離職を防ぐ!求められる現場の対応力 第七回 ~離職したい方の本音を引き出す~
今回は、離職を考える人に対する他者のアプローチを踏まえ、離職を考える人の本音を引き出すためにどうお話をするか、考えていきましょう。
本音を引き出すためのスキル
「すみません、お話したいことがあるのですが・・・」と神妙な顔で、声をかけられれば、「もしかしたら」と心中穏やかでなく、さらに退職を切り出してきたら、動揺は隠せません。しかし、ここで動揺したり、もうダメだと諦めていてはいけません。思い出していただきたいのは、本音を引き出して、その本音にアプローチする、ということなのです。そこに道が開けるかもしれません。
① 傾聴
考え直す余地はないかと説得にかかりたい気持ちでいっぱいになりますが、話を遮ったり、話が続いている最中に相手の意見を否定してはいけません。ここではとにかく、まずは冷静になり、話を聞くことに徹する、というのが理解し合うために必要なコミュニケーションの王道です。
当然誤解もあれば、「知らなかっただけでこれからでも対応はする」と言いたい気持ちになるのですが、こちらの意見を求められていないのに発言すると、「やっぱり、この会社の人は、私の話を聞いてはくれないんだ」と思ってしまい、心を開いてもらえないまま、本音を引き出すことがいよいよ難しくなってしまいます。
こちらの意見を言うチャンスを狙うようなことはせず、「今まで、きちんと話ができていなかったようで、申し訳なく思う」と伝え、話を聞かせてほしい、という気持ちを、姿勢・表情・言葉で表現しながら、「聞く」ことに努めましょう。
② 言語化
傾聴だけでは、相手の話したいこと、話せることだけに留まってしまい、私たちが本当に知りたいことまで話が至らないことになりかねません。
そこで、「辞める理由は、本人も十分に言語化できていない」という前提で、話を展開することを試みてみましょう。
転職活動の際には、転職先の会社に「なぜ、前職を辞めたのか」と聞かれることも多いのですが、これさえも転職に有利な理由を建前として用意して、本音を語ることが得策ではないと考えている可能性もあるわけです。転職サポート会社からも、転職活動の中で述べている退職理由と、本当に自分が思っていることが一致していない人も多い、という話が聞こえてきます。
いきなり退職を決めた理由を本音で話してもらうというよりは、少しずつ紐解いていくような気持ちで、本人が感じていたことや考えていたことを言葉にしてもらうための質問が役に立ちます。この方法を「言語化」と言います。自分の中ではっきりとしていなかったこと、場合によっては全く自覚していなかったことも、言葉にすることで気付かせるという手法です。話の展開は、現在から過去にさかのぼることで、話しやすくなるそうです。
「退職を考えながら、今はどのような気持ちで、仕事に当たってくれているのですか?」
「いつ頃から、考え始めたのですか?」
「それより前は、どのような気持ちで仕事をしていたのですか?」
「いつ気持ちが決まったのですか?」
「それは何かきっかけがあったのですか?」
立て続けに質問責めにするのではなく、これらの質問の答えを一つずつ丁寧に受け止めながら、言語化をサポートしていきます。そうすることで、本人にも問いかけている側にも、退職の理由の元にあるものが見えてきます。
③ 事実と意見
例えば、「私は、〇〇さんに嫌われているみたいで、一人で会場を担当させられることが多かったんです。」と言う場合、「一人で会場を担当することが多かったと感じたこと」が事実であり、実際に多かったかどうかは確認する必要があると考えられます。ましてや、〇〇さんに嫌われているというのは、「感じている」のが事実であって、〇〇さん自身がどう考えていたかは定かではありません。
傾聴の表現として、話の要約や伝え返し、と言われるものがありますが、この場合、「〇〇さんに嫌われていたんですか・・・」とか、「一人で会場を担当することが多かったんですね」と、意見を事実であるかのように捉えたり表現してはいけないのです。
ここでは、「〇〇さんに嫌われているように思っていたんですね」とか、「一人で会場を担当させられることが多い、と感じていたんですね」と述べて、意見は意見としてフィードバックし、同時に意見に対して寄り添う気持ちを示すように話しましょう。
④ きっかけと決め手
傾聴と理解そして言語化を進めると、次第に、本人にもこちらにも本音が見えてきます。
その話の中で、辞めたいと思った「きっかけ」と、辞めることを決心した「決め手」を捉えることができれば、相談の糸口が掴めるはずです。きっかけとなったことは、職場の雰囲気や会社の方針など、自分には解決できそうにない問題として捉えられていることが多く、だからこそ、本人は解決できずにその悩みを抱え続けていたのでしょう。本来であれば、早い段階で1オン1ミーティングなどの場で共有し、解決の方向を探るべく話し合っていればよかったのですが、それが放置されていたということでもあります。
遅ればせながらではありますが、それが「伝えてくれてありがとう。そういうことがあったのだとはっきりわかりました。そのことは改善に向けてすぐにでも取り組みたいと思います。」と伝えることはできます。また、実際にそのきっかけとなった状況に目を向けて、第二弾第三弾の離職防止に繋げなくてはもったいない話です。決め手となるのは、多くの場合、誰かのひと言です。ひどく嫌な気分になったことや、退職を後押しするようなひと言であったかもしれません。
これに対しては、気持ちを十分に理解しながら、違う見方や考え方を伝えることができます。
「その時に、いつも間違えてばかりだ、と言われて悲しくなりました」と発言があれば、「間違えは同じように続いているのですか? そうでなければ、いつも、ではないということですね」とか、「悲しい気持ちになったのは、努力していたからこそということもあると思います」などの受け止め方の表現もあるでしょう。
そうすることで、「誰かのひと言で人生の歩み方を決めなくてもよいのではないと思う」と伝えることもでき、「あらためて、どうしていくのがよいか考え始めてみましょうか。」と持ちかけることもできるでしょう。
次回は本音を引き出せた先にどうお話を進めていくかについて考えます。
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