株式会社リョケン

旅館経営の知恵

-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-

労働力の不足(減少)に備える

コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」

近年、人手不足の問題が急速に表面化してきた。世間では新卒就職戦線の変貌ぶりが盛んに報道されているが、旅館業界ではそれが一層差し迫った問題である。全体に従業員がなかなか思うように確保できなくなってきている。派遣に頼りたくても、人材派遣会社でも人の確保が難しく、出してもらえる人が足りないという状態がすでに各地で起こっており、派遣依存はコストだけの問題ではなくなりつつある。労働力不足は景気が好転すればきまって起こる現象だが、人手に頼る要素の多い旅館業界にとっては、とりわけ深刻な問題である。

 労働力の不足は、景気の拡大・縮小といった比較的短い循環とは別に、底流には「生産年齢人口の減少」という長期的な趨勢があることを忘れてはならない。日本の労働力人口は、これから10年の間に8%減少すると予測されている。まだ人手不足の状況にないところ、また当面そのような懸念のないというところも、いずれかなりの確かさで訪れる将来に備えて、この問題を考えていく必要がある。

 事業を営む上で労働力に依存する割合の高い産業を「労働集約型」産業という。サービス業の多くはこれにあたり、とりわけ旅館業は労働集約型産業の最たるものである。労働力の不足が問題になるとき、その影響をまともに受けるのはこのためである。
 
 労働力の十分な確保が難しくなる場合、労働集約型の事業がとるべき方向性は2つある。

 ひとつは、労働集約型からの脱却、すなわち「資本集約型」への転換を図る方向。徹底的な機械化、自動化により極限まで人手を省き、人手に依存せずに回せるモデルを実現することである。旅館商売でいえば、チェックイン・アウトの手続きをはじめ、部屋の清掃からセットアップ、食事の提供まですべて自動的に行うような装置が仮に構築できればあり得る話ではある。しかしこれには提供サービスのあり方から建物まで、すべて一から作り直す必要がある。またこれを実現するには、文字通り巨額の資本を必要とする。
 
 もうひとつは、労働集約型を前提とした中での構造改革を目指すこと。それは人手に依存しながらも労働生産性を高める、すなわち労働者1人当たりの生み出す付加価値を高めるための改革を進めることである。

 本コラムでは、そのような改革を進めていくための着眼点を中心としながら、旅館経営が取り組むべき課題と対応について様々な角度から提言していきたい。

(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2015年4月に観光経済新聞に掲載されたものです。

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