株式会社リョケン

旅館経営の知恵

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業務効率化への取り組み(24)マルチタスク

「マルチ=多数の」、「タスク=仕事」…「多数の仕事をこなす(こなせる)こと」。

マルチタスク

この言葉は最近、労働の世界でもしばしば使われるようになったが、元来はコンピュータなどで、同時並行で複数の処理を行う技術のことを言う。ちなみに、筆者も調べてみて知ったことだが、「マルチタスク」という言葉は日本電気株式会社の登録商標だそうである。
人の仕事にあてはめる場合、コンピュータと同様に、「複数の仕事を同時並行で処理する(できる)」という意味と、単純に「いくつかの仕事を兼務する(できる)」という意味の二通りの使われ方がある。さしずめ旅館の業務において前者は考えなくてよいと思われるので、後者の意味で捉えたい。商標と知ったからには、何か別の言葉に置き換えるべきだが、「複数業務の兼務」などといういかめしい言葉しか思いつかないので、この際「マルチタスク」の言葉を使わせていただくことにする。

 

マルチタスクには二つの効用がある。「労働人員の効率化」と「労働者の多能化」だ。

 

まず労働人員の効率化―勤務時間中、どの部署も連続して十分な仕事量で満たされているということはまずあり得ない。業務には自ずと忙しい時間とヒマな時間がある。これこそサービス業の特徴であり、旅館業はいわばその最たる業種である。しかも忙しい時間帯や忙しさの度合いが部署によって異なる。だからある業務をやる人や部署が、そ
れだけのために専任化していればいるほど、ピーク時に多くの人員が必要になるが、これを他部署の人でもできるような仕組みにしておけば、ピーク時の必要人員を抑えることができる。

 
もうひとつの効用、労働者の多能化―1人が多様な職務能力を持つことである。ひとつのことだけできる人を「単能」と呼ぶとすれば、「単能」労働力として働き続けることは、少なくとも経済的には不幸と言えるのではなかろうか。もちろん、それだけで十分な所得がもたらされるならそれもよいかもしれないが、なかなかそうはならない。
マルチタスクは、社員の職務能力の幅を広げ、多様な働き方を可能にすることにつながる。

 
お気づきかもしれないが、この二つは実は並列的なものではない。多能化が実現されなければ、ここで言う人員の効率化はできない。また多能化は、人員の効率化によって活かされなければ生産性の向上にはつながらない。能力は、使って初めて価値を生むのである。

 
言い換えるとこういうことだ。マルチタスク化による生産性の向上を考えるなら、まず条件整備としての多能化を行う必要がある。
次にそれを活かすため、多能化した人材を業務シフトの中にあてはめていくことをしなくてはならない。この二つのステップを頭に描いて、目標とする実現時期に合わせてスケジュール化しておくことである。

 

 

(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)

 

 

※当記事は、2017年9月に観光経済新聞に掲載されたものです。

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