旅館経営の知恵
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インバウンドへの対応(3)
旅館はもっと良くなるべきだ
旅館業界をとりまく大きな特徴として、前回の「インバウンド集客の方法」の続きをお伝えしていく。
3.インバウンド集客の方法(続き)
FITの獲得には口コミが有効だ。特に今日では、「ネットを通じた口コミ=SNS」が頼もしいツールとなる。たまたま来泊した外国人がきっかけで、同じ国からのお客さまが芋づる式に増えているという旅館も見られるが、こうした現象は、口コミないしSNSの評判で触発された結果と思われる。外国の人にとって、日本国内のことはほとんどの場合未知であり、流通している情報もあまり多くないから、口コミの影響力は大きい。
そこで外国人の来泊があったら、そのチャンスを活かして口コミやSNS発信を促すことを考えたい。そのための方策は二つある。
(1)積極的なコミュニケーション
第一には、彼らとコミュニケーションすることだ。口コミを期待するなら、何よりもまず温かいおもてなしを喜んでもらうことが一番だからである。フレンドリーなコミュニケーション、特に外国旅行時のそれは、まず万国共通で喜ばれる。だから接客の場面では、必要な説明や案内をするだけでなく、より積極的に会話することで、彼らと「仲良し」になることを目指してみよう。
国ごとの言語が話せる従業員がいればそれに越したことはないが、英語だけでも通じる国はわりと多い。片言ないしは簡単な単語の組み合わせでも使えればずいぶん違うので、積極的に言葉がけをしてみていただきたい。英語も無理なら身振り手振り、あるいはイラストや写真を入れた「指差し会話シート」を使う方法もある。
なお「指差し会話シート」の用意があると、言葉は通じなくとも、彼らをもてなそうとする「誠意」は伝わるので、ぜひ作っておくことをおすすめしたい。
(2)口コミネタ
外国人の口コミ発信を促す方策の第二は、「口コミネタ」の提供である。
まずストレートな効果が期待できるのは「写真」だ。良い写真が撮れる、また撮りたくなるような「絵になる被写体」を意図的に用意しよう。館内にそういう場所をつくり、そこを利用してもらうような仕掛けをすること、また周囲の景観など、良い写真の背景となる「撮影スポット」を案内してあげることも効果的だ。
さらには、周辺の観光名所を積極的に紹介し、なるべくそれらを見て回ってもらうようはたらきかけることをおすすめしたい。とりわけ、「日本ならでは」というような風景があれば強い。よく知られているところでは、長野県地獄谷の「スノーモンキー」(雪の中で温泉に浸かるニホンザル)や、「かまくら」の幻想的な雪景色といったものがあるが、これなどはまさに「1枚の写真」が集客に大きく貢献している。
また日本料理は独自の繊細な美意識に根差しているので、外国人旅行客にとっては恰好の被写体となる。お料理の「見栄え」を少し意識して、「日本的情緒」を感じさせるような見せ方を工夫することも価値があるだろう。
「口コミネタ」は写真ばかりではない。もうひとつ重視したいのは、彼らに「語るべきこと」を伝えること。歴史、いわれ、考え方、作法といった文化的背景がそれである。このような情報価値が加わることで、単に目に映る光景だけよりも、「伝えたい気持ち」にはるかに厚みが増す。ただしこれらを片言や身振りで伝えるのはさすがに至難の業であるから、きちんと翻訳したものを用意する必要がある。
「口コミネタ」を伝えるにも、前提となるのはやはりコミュニケーションだ。接客サービスは、次の誘客につなげるプロモーションとしても重要な役割を担うことになる。なんと言っても、旅館はお客さまとじかに接することができる商売である。この最大の利点をインバウンド客の獲得にも最大限に活かしたい。
(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2016年1月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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