株式会社リョケン

旅館経営の知恵

-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-

「自分好み」で決まる個人型旅行(4)

旅館はもっと良くなるべきだ

4. 1人のお客さま

 アンケートで、こんな意見をしばしば目にする。
 「フロントの素っ気ない応対にはガッカリしました。これまで5回ほど利用させてもらっていますが、何度来てもそのたびに『一見扱い』なんですね。係の人も…」
 このお客さまにはおそらく、その旅館に少なからぬロイヤリティ(愛顧の気持ち)がある。旅館と自分とが相思相愛の関係であることを望んでいる。なのにこれでは、お客さまの気持ちをふいにしてみすみす取り逃がしているようなものだ。またこのような苦言を表に出さず、ひっそり寂しく帰っていくお客さまはかなり多いと思われる。この「1人のお客さま」に、もう少し目を向けられないだろうか?
 食事でもお酒を飲みに行くのでも、たいていの人に「行きつけの店」というのがある。その都度ネットで調べたりすることもなく、頭に思い浮かんだその店に行く。それは雰囲気、料理、サービスなど、その人にとって総合的に「いい店」としてすでにインプットされているからだ。だがそうしたことに加えて、じつはその選択要因のかなり大きな部分、ときには大半が、自分がそのお店にとって「顔なじみ」だからであるという場合は多い。客として、個人として認められていることが、何よりもその人にとって居心地の良さにつながるのである。
 旅館では毎日何十人、何百人という人が入れ代わり立ち代わりやってくる。その中で「1人のお客さま」の存在は小さなものかもしれないが、そこにどれだけ意を注げるかが、お客さまとの関係づくりにおいて大きな違いとなる。
 ネットの時代であり、クールに比較される時代ではあるけれど、いやそういう時代だからこそ、心の関係づくりは価値がある。これはしかし新しいことでも何でもない。旅館商売ではもともと当たり前だったはずのことであり、接客サービス業の大事な原点のひとつである。ところがネット化という潮流の中で、今は逆にそのへんが混とんとしてしまっている。受け入れる私たちも、利用するお客さまの方でも、使い方、売り方において無意識の戸惑いを感じながらやっているのではなかろうか。
 そういう意味では、今は過渡期にあると考えている。いずれお客さまの方でも、それだけでは物足りなさを感じるようになり、個人として自分の存在を認めてくれるような本当の癒しを求める志向が顕在化してくるだろう。旅館にもいろいろなスタイルややり方があるので、これを追い求めることを一概に是とするわけではないが、「1人のお客さまとの関係」を大事に考えるその先には必ず一定のマーケットがあり、商売として成り立つはずだ。

(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2015年11月に観光経済新聞に掲載されたものです。

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