株式会社リョケン

旅館経営の知恵

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ジョブローテーション 

コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」

入社3~5年ぐらいの「中堅どころ」のやりがいづくりの方策として「公的資格の取得奨励」をご提案した。今回はもう一つの方向として、ジョブローテーションを取り上げたい。

ジョブローテーションとは、人材の育成などを目的に、計画的にいくつかの職務や部署を経験させる仕組みである。旅館であれば、例えば接客→調理補助→宴会→設備管理→フロント→営業というふうに、3カ月~2年おきに配属部署を変えていくイメージだ。旅館でこうした人事が行われているケースはまだ少ないと思うが、行うことによるメリットはたいへん多い。

 

 

(1)何よりもまず、いろんな業務をこなせる能力が身に付き、いわゆる「多能人材」を育てることができる。マルチタスク化を可能にするだけでなく、どこかの部署で欠員が出たような場合でも、即戦力として補充に回すことのできる「能力バッファ(余裕)」を生む。

 

(2)転々とする配属先の中には、時に仕事や人間関係など性に合わないケースも出てくるが、逆に思わぬ適性が見つかる場合がある。このため最終的には、固定的な配置よりも適材適所の実現が図れる。

 

(3)各部署の立場や実情を理解することにより、前後の工程に配慮した判断や配慮ができるようになる。

 

(4)移った部署ごとに人脈ができるので、部署間のコミュニケーションや融和の潤滑剤となる。また部門セクショナリズムの予防にもつながる。

 

(5)部署ごとにある「常識の壁」を跳び越えることができる。前の部署で得たやり方、考え方が別の部署で生かされ、業務改善を誘発する効果が期待できる。

 

(6)組織全体としての仕事の流れや各部署の動きなどを俯瞰(ふかん)的に見渡すことができるようになり、応用力が身に付く。多少のイレギュラーなら、いちいち他部署に相談せずとも、スピーディーな対応が可能になる。

 

(7)将来、総合的な職務を担える能力と感覚が養われ、幹部候補生としての育成につながる。一つの部署で仕事を覚えて、そこで管理職となるだけでは陥りがちな「アナグマ」思考を防ぐこともできる。

 

(8)社内キャリア形成の仕組みがあることは、求人において効果的な訴求ポイントとなる。近頃では新卒学生なども、こうしたことへの関心は思いのほか強い。

 

 

そしてもう一つの大きな効果は、今回のテーマである「中堅社員のやりがいづくり」につながることだ。

むろん、デメリットもある。各部署で仕事を覚える必要があり、教える手間もそれだけ掛かる。部署間で給与水準に格差があると調整が難しい。本人がその部署で活躍している場合や、抜けたら要員不足となる場合でも異動させるべきか…といった問題だ。だがこれらを乗り越えてでもやる価値はあると筆者は考える。

 

ジョブローテーションは、本来の制度理念からすれば、むしろ新入社員の段階から行っていくのが望ましい。ただ大多数の旅館では社員数がそれほど多いわけではなく、従って組織もそれほど大きくない。また新入社員が必ずしもそのような就労イメージを持っているわけでもないと思われるので、3年ぐらいたった頃から、能力や適性を見極めた上で当てはめていくのが妥当かと思われる。

 

 

(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2019年12月に観光経済新聞に掲載されたものです。

 

 

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