個人客ニーズに応える「次世代型リゾート」への転換
伊東ホテルジュラク(静岡県・伊東温泉)
「聚楽グループ」は、大正13年(1934)に東京神田須田町に、洋食をリーズナブルに楽しめる「簡易洋食」ののれんを掲げた「須田町食堂」の開業以来、100年にもわたり日本の外食産業の発展に貢献をされています。
昭和30年代以降は旅館事業にも着手し、現在は外食産業・ホテル旅館業を核として、日本人の身近なレジャーを提供しながら余暇の豊かさを追求されてきました。
聚楽グループ唯一となる伊豆の宿泊施設として、昭和43年(1968)「伊東ホテル聚楽」の開業以来、時代の流れとともに進化・発展を続けてきた「伊東ホテルジュラク」がこのたび、個人客向け「次世代型リゾート」への転換を図る、大規模なリニューアルを実施しました。聚楽グループの創業100周年事業としても位置づけられる今プロジェクトは、団体客依存型の「低価格・高稼働」戦略から脱却し、個人客をターゲットとする「高単価・高付加価値」戦略へと転換を図るものです。
高付加価値型サービスとして、商品の明確なコンセプトとなる「オール・インクルーシブ」スタイルを導入し、顧客満足度の向上を目指しました。同時に、運営効率化のために別館(ガーデンスイート棟)を閉鎖し、営業規模を99室から本館(センターウイング棟)のみの71室へダウンサイジングを実行。食事についてはダイニング改装により一本化し、コンベンションホールや宴会場、個室食事処での提供を廃止しています。人の働きと施設を集約化し、スタッフのマルチタスク化も進めることで、少人数でも質の高いサービスを提供できる体制を整えました。
「稼働率重視」の運営から「高付加価値・高収益」のスタイルへ
「伊東ホテルジュラク」は、リニューアル以前は100室規模の客室を擁していたため、エージェントセールスを軸に団体客獲得を重視した「高稼働重視」の営業を行い、条件は少し厳しくても、可能な限り100%稼働に近づけるために多様な団体客を獲得してきました。団体客をベースとしながら、直近対策により個人客の獲得を行うことで常に95%程度の客室稼働率を確保し、高い成果をあげていました。多くのお客様を迎えるため、たくさんのスタッフを抱え、さらには派遣社員やアルバイトなどを加えた運営を行っていました。
しかし、時代とともに宴会重視型の団体客が徐々に減少し、付帯売上が低下するようになると、客室稼働率は高くても利益の確保が厳しい状況が徐々に増えてくるようになりました。沢山のお客様をお迎えし、多くのスタッフが一生懸命に働いても、利益が増えない状況が続いてきました。
一方、個人客においては「会席料理」と「バイキング」での料理運営を行っていましたが、比較的安価な宿泊料金であるために集客は行えましたが、価格のわりにお客様からは様々な要望やリクエストが多く、評価はあまり芳しくない状況が続いていました。
そのような時にコロナ禍にみまわれ、団体客は壊滅状態となり、個人客も宿泊旅行を敬遠する期間が長期にわたることになりました。これまでの「稼働率重視型」では営業もままならず、多くのスタッフを抱えていることも経営的に難しい状況となり、早期の方針転換を迫られることになりました。
これまでの「稼働率重視型」から「高付加価値型」にシフトし、販売単価を上げることにより高い利益率を確保するスタイルへの転換を行うことになりました。
明確なターゲティングと商品づくり
商品づくりにおいては、「オール・インクルーシブ」スタイルを導入し、明確な商品提案を行うこととしました。客室の9割近くをベッド仕様に改装し布団敷業務を縮小、人の配置はフロントのある3階エリアに集約し、業務のマルチタスク化を促進することで、業務効率を高めました。
主軸となる「料理」商品はビュッフェスタイルながら、高い満足度を追求するためにメインとなる料理はオープンキッチンで出来立てをお渡しする方式を採用。さらには体験メニューを充実させ、ワークショップをはじめ、ニュースポーツや温泉卓球、ボードゲーム、体験メニュー、ミニコンサートなど、多彩な過ごし方の提案を加えました。
商圏は神奈川・東京・埼玉などの人口が多い首都圏中心での展開はそのままに、「30~40代の独身OL」を主たるターゲットに想定した商品づくりを基本に、30代までのカップル、高所得ファミリーを二次ターゲットとして設定しました。
「オール・インクルーシブ=お得」ということではなく、本質的な「高質感」を商品づくりの基本として、お客様に良い時間(滞在)を過ごしていただけるように商品計画を実施しました。
レストランの改装と料理の向上
今回のレストランリニューアルでは、特に料理の質の向上に注力しました。食事提供をビュッフェダイニングに一本化し、厨房機能を集中化することでライブキッチンを充実させて、出来立て料理の提供にこだわりました。一皿で完結する美しい盛り付けにも配慮しています。
ビュッフェダイニング「AMAHANA」


客室の洋室化改装
5〜11階の全62室で洋室化改装を実施。これまでの和室では布団敷き等に多くの人手が必要でしたが、洋室化によってその作業を省き、夕食会場に人員を集約できるようになりました。人員配置を最適化し、スタッフの省力化を実現しています。また、3人利用時は3台目ベッドをあらかじめセットし、5階以上の客室はベッド数に合わせて定員を設定することで、就寝準備にかかる作業コストを削減しています。
10階・11階には天然温泉かけ流しの露天風呂付客室を新設し、特別な滞在体験を演出します。これらの戦略転換により、高い利益率を目指しました。


ラウンジの改装とオールインクルーシブ
ロビーフロアのラウンジは、隣接するテラスとともに、時間ごとに変化する雰囲気を味わえる贅沢な空間づくりにこだわりました。オールインクルーシブのソフトドリンクは、機械ではなく、瓶のサーバーやピッチャーなどで提供するなど、高質化を意識しています。提供するドリンクメニューも時間帯ごとに変化させ、各シーンで楽しめる内容としました。
LOUNGE AYA-NAMI


戦略的なSNS運用で直販強化
ターゲット客層の転換にあわせて、SNSの活用方法も変更しました。個人客向け戦略として、ショート動画中心からYouTubeでのロング動画での発信へ移行。これにより直予約比率が3割まで上昇しました。
さいごに
団体、低価格・高稼働から高付加価値・高単価へと大きく舵を切った今回のリニューアルにおいては、運営面を改善させて、高利益体質に転換させることが必要でした。
・ビュッフェに一本化したことで調理スタッフをビュッフェダイニングに集中
・洋室化改装により、布団敷き・清掃の業務軽減
・マルチジョブ化を進め、パート給与と外部委託費を繁閑に合わせて有効化
こうして効率を高める一方でサービス品質を維持・向上させ、お客様満足を追求しました。
・高付加価値の露天風呂付客室の新設
・ラウンジの改装によるぜいたくな空間づくりとオールインクルーシブサービスの導入
営業規模のダウンサイジングと施設・商品戦略の転換によって、付加価値を高めて高収益化を実現した事例です。

伊東ホテルジュラク
- 所在地
- 〒414-0055 静岡県伊東市岡281番地
- 客室数
- 71室