株式会社リョケン

旅館経営の知恵

-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-

読んで見直す旅館の接客-基礎編(4)-
会話力を高めましょう(実践編)

読んで見直すシリーズ

基礎編につづき、会話力を高めるための実践的なポイントを見ていきましょう。

1.好感をもたれる話し方

 旅館ご到着時のお客様には、説明をしなければならないことが実にたくさんあります。私たちがたくさんあると思っているのと同時に、聞いているお客様もまだ聞くことがあるのかと思っているかもしれません。
 ただし、お客様がその説明を不快に感じながら聞く場合と、なるほどよくわかりましたと受け容れながら聞く場合とがあります。

 よく“マニュアル的”ということばを批判的に使いますが、決められたことを話すのが問題なのではありません。多くの場合、原因は一方的な話し方、つまりお客様の状況とは無関係に話が進んでしまうことにあります。説明的な内容であっても、好感をもっていただける話し方には、ちょっとしたコツがあります。
 さらに、お客様から「この人の話は聞きやすい」「この人と話をすると気分がよい」と思っていただける話し方を身につけましょう。

 上達するコツは、“対話”を心がけることです。お客様のことばに限らず様子を受けとめて、私たちのことばや反応を返す。この繰り返しが対話です。

2.間をとる

 お客様が、自分の話に注意を向けてくれているかどうか、あるいは理解をしてくれているかどうか、気にしながら話を進めていますか。

 次の文章を、口に出して読み上げてください。

 「いらっしゃいませお待たせいたしました鈴木様でございますねよろしければお部屋にご案内させていただきます」

 句読点がないので、実に読みにくい文章ですね。ところが、時々まるでこのままの口調で話してしまうことがありますから、気をつけなくてはいけません。
 慣れとは怖いもので、感情の働きとは無関係に口が勝手に動いてしまっています。もちろん聞いているお客様には、感情のこもっていない話し方だと捉えられてしまいます。これが、マニュアル的な話し方になる原因です。
 お客様を配慮しながら話してみると、

 「いらっしゃいませ。お待たせいたしました。鈴木様でございますね。よろしければ、お部屋にご案内させていただきます。」

 となったはずです。
 特に、「いらっしゃいませ。お待たせいたしました。鈴木様…」のところは続けざまに話してしまいがちですが、挨拶がいかに大切かがわかっているならば、お客様に最良のインパクトを与えるように、しっかりと感情を表現したいものです。
 歓迎の気持ちを十分に持てば、お客様の確認という作業的なことばの前に“間”がおかれることになります。

 1秒たらずのこの“間”こそが、心の通った話し方だと感じさせます。

3.うかがいをたてる

 ここで、客室内の説明をしてみてください。

 話しながら何を考えましたか。お客様にはわかりやすいだろうかと、考えましたか。
 当たり前ですが、説明は私たちのサービスという商品の一部です。そしてサービスでは、何をしたか、何を説明したか、が問われるのではなく、何を感じていただけたか、何を理解していただけたか、が問われています。すなわち、わかっていただけて初めて、説明をした価値が生まれるということです。

 ですから、今の説明がそのお客様に適切だったかどうかをたずねるひと言、「おわかりにならないことはございませんでしょうか。」を付け加えてみましょう。あるいは、そういう思いを込めて、お客様に視線を投げかけてみましょう。
 また、お子様連れのお客様に飲み物のグラスを提供する際、手元では危ないからと気を遣って「お子様用のお飲み物はこちらに置かせていただきます。」などと言いますが、これを「お子様用のお飲物はこちらでよろしいでしょうか。」に換えるだけで、お客様に合わせて配慮をしていることが感じられます。

4.謙虚な話し方

 謙虚になるというと、「相手も普通の人ではないか。なぜ、自分を低く感じさせる必要があるのか。」と考える人がいますが、誤った考え方です。 相手の方を敬うことと、自分の分(ぶ)をわきまえて謙虚になることは同じことで、むしろ品性の高さを示すものです。
 お客様を大切に思う気持ちが、ていねいなことば、礼儀正しいことばを求めるのです。

1) 敬語が使える
 ていねいに話すように心がけること。
 接客の慣用句が身についていること。

 次の3つのことばを徹底するだけで、随分ていねいに話そうとしていることが伝わります。
 
お客様
わたくし
○○でございます

 特に「お客様」は、お客様の前だけでなく、ミーティングの場や事務所でも使うべきです。「今日はお客の入りが多そうだから…」などと会話しているようでは、ことばづかいはもとより、お客様に満足していただけるホテル・旅館づくりにはほど遠いものと思われます。

 ていねいさを伝えることば(3つ)と接客基本用語(8つ)を、全員が自分のものにするように取り組みたいものです。

「お客様、こちらでございます。」
「わたくしがお持ちいたします。」
「はい、そうでございます。」

「いらっしゃいませ。」
「ハイッ、かしこまりました。」
「少々お待ちくださいませ。」
「たいへんお待たせいたしました。」
「申し訳ございません。」
「失礼いたします。」
「おそれいります。」
「ありがとうございます。」

2)感謝できる
 感謝の気持ちを自然に抱ける。
 感謝のことばを口に出して言える。

 お客様には「ありがとうございます。」と常に言っている人でも、職場の仲間には言いそびれていることが多いように思います。「あぁ、終わったの。そこ置いといて。」ではなく、「あぁ、ありがとう。そこ置いといて。」と言う方が、お互いずっと気分がよいのに、と思いませんか。
 また、お客様が空いた食器をテーブルの端に集めて置いてくださっているのを見たら、なんと言いますか。
 「すいません。」よりも、「ありがとうございます。」「おそれいります。」が口をついて出てくるようになりたいものです。

3)お詫びできる
 素直に反省できる。
 お詫びのことばを口に出せる。

 お客様に呼ばれて行くと、「タオルのセットがひとつ足りないんだけど。」と言われました。こういう時、どのように答えますか。「はい、お持ちします。少々お待ちくださいませ。」は、最適な言い方でしょうか。

 調子に乗って「フロントに言ってくだされば、来る時に持ってきたんですけど、少々お待ちいただけますか。」と余計なことを言ったり、「部屋割りとご人数が変わったんですね。」とお客様に非があるような言い方をするのは、もってのほかです。
 お客様が不自由をしているのですから、「それは、申し訳ございませんでした。ただいまお持ちいたします。」などのお詫びのことばを添えましょう。
 今お客様が困っていることに、最大の配慮を示しましょう。

5.聞き上手になる

 聞き上手といっても、ただ「はい。」「そうですか。」「えぇ。」と相づちを繰り返すだけではどうでしょうか。聞き上手というよりも“話させ上手”を心がけましょう。

1)おうむ返しをする
 話の要点やポイントになることばをひと言で繰り返す。
 理解していることをひと言で表現する。

 お客様が「今日は○○に行ってきたんですけど、どこにも渓流釣りの人がたくさんいましたよ。」と言われているのを聞いて、「○○は秋がいいんですよ。」では、ピントがずれてしまいます。
 まずはお客様のお話を受けて、「そんなにたくさんの人出でしたか。」などと返す方が的を射ています。

2) 話の展開を促す
 質問を投げかける。
 話に興味を示していることを伝える。

 お食事の時にお飲み物をうかがったら、「飲み物かぁ。どうしようかなぁ。」とお客様が言われたら、どのように反応しますか。無言でいたり、「そうですね。」では、気まずい雰囲気になりかねません。そんな時は、「地ビールや地酒もご用意しております。いかがですか。」とか、「女性のお客様には、こちらのカクテルも人気がございます。」などと、投げかけてみましょう。

3) 感情を表現する
 楽しさや驚きをことばにする。
 耳で聞くだけでなく、心で受け止める。

 「これ初めていただきましたけど、おいしいですね。」と言ってくださったのに、「そうですか。」などと気のない返事をしてはいけません。「それは、ありがとうございます。」「調理の者も喜びます。」と、喜んでくださっているお客様と共に、私たちもうれしい気持ちを表現しましょう。

 私たちはいつでも、お客様の感情に応えるようにしたいものです。

(リョケン研究員 大西ますみ)

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